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てんりの昔ばなし

 


第6話 金龍寺の観音さま    第7話 夏目谷の天狗    第8話 ひじきり丸とひじきり門
第9話 内馬場の由来(内馬場町)   
第10話 泥かけ地藏


6.金龍寺の観音さま(山田町)      上へ移動
 山田町の村里離れた山奥に、梨の木谷きだにという深い深い谷があります。昔、この谷には小さなおどうがあり、山の人々の安全を守ってもらうため、観音かんのんさまがお祀りしてありました。

 ある大雪の日、一人の狩人かりゅうどが ここで一匹の男鹿おじか射止いとめました。
  狩人はえものを持って山をくだろうとしましたが、大雪のために道に迷ってしまいました。途方とほうにくれた狩人は、その鹿を食べ、お堂に泊まり込みました。

 ところが、夜中になって急におなかが痛くなりました。大変痛く、もがき苦しんでいると観音さまが現れて、
 「私のかわいがっていた鹿を殺して食べてしまったから、苦しまなければならないのじゃ!」と言われるではありませんか。

 狩人は、
 「もうこれからは、決して殺生せっしょうはいたしません。申し訳ないことをいたしましました。どうぞお許しください。」と観音さまにお誓(ちか)いし、ゆるしをいました。

 すると、観音さまのお姿がスーと頭の上から消えて、あれほど苦しんだおなかの痛みもすっかり収まり、無事、家に帰ることができました。

 こんなことがあってから、狩人はその観音さまを信仰しんこうし、朝夕お祈りするようになりました。

 ある日、また観音さまがお姿を現して、
 「おそろしや梨の木谷の夜ふけてこずえにさけぶ声は何鳥なんのとり」とうたわれ、私を高山たかやまへ連れていってほしいとお告げになりました。
 そこで男は、観音さまを背負せおって隣村となりむら馬場ばばというところの高山へお移ししました。

 そこは今の奈良市都祁つげ馬場町の高山という所で、小高い場所に金龍寺きんりゅうじというお寺があり、高さ50センチメートルに満たない小さな木彫(きぼ)りの観音菩薩かんのんぼさつがまつられています。

 1300年も昔の飛鳥あすか時代に作られたものだそうで、これが、男の人に背負われて、梨の木谷から来られた観音さまだと言い伝えられています。



 


 7.夏目谷の天狗(竹之内町)      上へ移動
 昔、朝和あさわ村の竹之内たけのうちという集落の東に夏目谷なつめだにと呼ばれる山深い谷がありました。そこにはいたずらの大好きな天狗てんぐが住んでいました。

 天狗は、池のそばの大きな松の木に登ってはあたりの様子をうかがい、どこかでいたずらをしてやろうといつも考えていました。

 ある雨上がりの日、村人がその谷のそばにある畑へ行ったところ、畑の真ん中にやわらかい黒土(くろつち)が盛り上がっていました。「おやっ」と思いながら掘りおこしてみたところ、中から首のないにわとりが出てきました。

 そのにわとりはまだあたたかく、うすきみ悪くなりましたが、今晩のごちそうにしようと思い直して持って帰り、とりなべにして食べました。

 その夜、寝静ねしずまった頃、おもてで大きな音がしました。何事なにごとかと出てみると、どうしたことでしょう。にわとり小屋ににわとりが一羽もいません。

 村人は天狗のしかえしだと気づき、がっかりしてしまいました。

 また、こんな天狗のいたずらもありました。

 ある月夜つきよばん呉作ごさくという男が夏目谷の方をフラフラと歩いていました。男はほろい気分で明るい月に見とれていましたが、ふと前を見ると、目の前にきれいな女の人が立っているではありませんか。

 「だんなはん、わたしをよめはんにしとくなはれ。」と女に言われ、男はびっくりしました。

 でも、こんなにきれいな女がわしの嫁になってくれるなんてと嬉しくなり、男はすぐに、
 「おいらの嫁さんになっておくれ。うたるさかい。」と言うや女を背負せおい、村へ向かって歩き出しました。

 しかし、村のは近くに見えているのに、なかなか村に着きません。男はあせりました。背中せなかの女は体にくい入るほどだんだん重くなり、とうとう男はその場へ座りこんでしまいました。

 夜が明けてきたころ、そばを村人が通りかかり、びっくりして言いました。
 「オヤッ、おまえは村の呉作どん。何してるんや!」
 なんと、そこにはくたくたになった呉作が、大きな石を背負うて座り込んでいたのです。
 夢からさめたように背中の石をおろした男は、嫁さんだと思っていた女が石になり、がっかりしてしまいました。

 夏目谷の天狗は、ちょいちょい村人にこんないたずらをしたそうです。




 


 8.ひじきり丸とひじきり門(柳本町)      上へ移動
 昔、尻掛則長しっかけのりながという刀鍛冶かたなかじの名人が、尻掛(現在の朝和地区市場あたり)に住んでいました。

 則長の鍛えた刀はよく切れると、なかなかの評判ひょうばんだったので、長岳寺ちょうがくじのお坊さんが、「ぜひ私にも良い刀を作ってほしい。」と則長にたのみました。

 お坊さんは、今日か明日かと刀ができあがるのを楽しみに待っていましたが、何日経っても音沙汰(おとさた)がありません。
 しびれを切らしたお坊さんは、「いったいどないしているのやら。もう、できてもええころやのに。」と、則長の仕事場へようすを見に行きました。

 仕事場に近づくと、トンテンカン、トンテンカンと心地よい音がひびいてきます。
 「私の頼んだ刀を作ってくれてるのやな。」と思い、そっと窓からのぞきました。

 仕事場の中では真っ赤な火がおこっています。よく見ると、その火は炭火ではなくすりぬか(もみがら)の火でした。
 「なんや、炭で鉄を焼いてるのとちがうのか。火力の弱いすりぬかの火なんかで、ええ刀ができるわけないわ。もうあかん、あきらめよう。」と、がっかりして帰りました。

 お坊さんが刀のことをすっかり忘れたある日、「刀ができあがりました。」と、則長が一振りの刀を持って寺へやってきました。

 お坊さんは、「もう刀はいらん。どうせたいした刀ではないやろ。もうええから、持って帰ってくれ。」と、中身も見ないで突き返しました。

 長い時間をかけて一生懸命いっしょうけんめいに作った刀を、一言ひとことで決めつけられた則長は、「私は頼まれたから作ってきたのに。刀を見ないで『たいした刀ではない』とはどういうことですか!」とかんかんに怒りました。

 そして、「この刀が切れるか切れないか、ごらんに入れましょう。」と言って、刀を抜いて門に切りつけました。すると、門のひじのところがスパッと切れました。

 その切れ味のすごさにびっくりしたお坊さんは、「すまない、私のまちがいやった。許してくれ。」とひらにあやまり、たくさんのお礼とごちそうで刀鍛冶をねぎらって、その刀を受け取りました。

 その後、この刀は「ひじきり丸」、切られた門は「ひじきり門」と呼ばれるようになりました。

 名刀「ひじきり丸」は、その後、長岳寺から持ち出されてしまい、今ではどこにあるかわからなくなってしまったそうです。



 


9.内馬場の由来(内馬場町)      上へ移動
 市内の内山うちやまというところに、昔、永久寺えいきゅうじという大きなお寺がありました。

 「西の日光にっこう」と呼ばれるほどの立派な寺院でしたが、明治時代になってさびれてしまい、今は本堂池だけがさびしく残っています。

 その永久寺がはなやかだった頃のことです。
 永久寺の僧侶そうりょ乗馬じょうば下手へたで、大変、苦労している人がいました。

 「私も乗馬の稽古けいこをしてなんとか上手じょうずにならなければ。」と、寺からお不動様ふどうさまを通り、布留の石上神宮まで、毎日、乗馬の訓練くんれんを兼ねて参詣さんけいし、上達を祈りました。

 毎日、毎日、馬に乗り、おまいりする姿を見て、周辺の人々は、「また通らはる。ややこしい馬乗りやさかいに、落馬らくばして巻き添えにおうたら大変やで。馬の通る道には近寄らんときや、よけときや。」と言って避けていたそうです。

 毎日、通る道(馬場)は決まって同じ道でした。その内、通り道(馬場)の内側を村人達が「内馬場うちばば」と呼ぶようになり、それがそのまま地名になったそうです。

 内馬場という地名は、このように永久寺の僧侶が乗馬の練習をしたことが始まり、と伝えられています。



 


10.泥かけ地藏(東井戸堂町)      上へ移動
 八軒屋はちけんやの北側にある槌屋つつやの地蔵さんのことを、こう呼んでいます。

 瓦ぶきの立派なほこらの中にある、かなり大きなお地蔵さんで、祠の中には古びたわらじが掛かっています。

 昔は布留ふる川北流の川沿かわぞいにあったのですが、流されていたのを地元の人が拾い上げてまつったと伝えられています。

 体のどこかに痛みがあれば、地蔵さんの同じところに、こぶしほどの大きさのどろをつけて祈願きがんすると治るということから、「泥かけ地蔵さん」と呼ばれるようになりました。

 少しの痛みでは医者にかかることのできなかった当時のことです。人々はすがる思いで祈ったことでしょう。

 ある時、一人のおばあさんが「泥をかけてはかわいそうだ。痛いところは、さするようにしたらいい。」と言いながら、泥を全部洗い流してしまいました。

 村人たちは大変驚き、石碑せきひを建てたそうですが、そこには「昭和二十七年五月」ときざまれています。

 その後は、地蔵さんに泥をかける人もなく、今は汚れのないきれいな姿で静かに見守っておられます。

 毎年7月24日には、村の婦人ふじんたちが団子を供えてお祭りをし、村の守り神として大切に祀られているそうです。




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