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てんりの昔ばなし

 


第1話 ジャンジャン火    第2話 大きな櫟の木    第3話 こんにゃく橋の幽霊
第4話 天武帝の笏指池    第5話 布留の名と神杉



1.ジャンジャン火(藤井町)      上へ移動
 昔、藤井町の龍王山りゅうおうざんに、十市遠忠といちとおただが城を築きました。その城は大変立派な城で、ちょっとやそっとでは落城らくじょうしないと言われていました。

 城主の十市遠忠もすぐれた武将ぶしょうでしたが、ついに信貴山城主の松永久秀まつながひさひでに攻め落とされてしまいました。遠忠は信貴山しぎさんをにらみ、うらみながら憤死ふんしし、大勢おおぜいの兵士たちも、火の手が上がった城とともに命を落としてしまいました。

 その後、彼らの恨みは城跡しろあとに残り、成仏じょうぶつできないまま、火の玉となって山上に現れるようになりました。

 雨が今にも降りだしそうなある夏の夜、山上に大きく真っ赤な火の玉が現れました。それを見た村人が「ホイホイ、火の玉だ!」と言ったとたん、城跡から無数むすうの火の玉がジャンジャンうなりをたてながら飛んできてその人をとりまき、焼き殺してしまいました。

 そんなことが龍王山を囲む村々でたびたび起こったので、村人たちは「ジャンジャン火を見るな!声を出すな!ジャンジャン火が通る時は橋の下にかくれろ。通り過ぎるまで出てはいかんぞ!」と言って恐れました。

 ある時一人の武士ぶしが現れ、「俺が退治たいじしてやろう。」と龍王山の中腹ちゅうふくで火の玉を斬りつけましたが、かぶとに火がつき、死んでしまいました。

 また、ある時は関取せきとりが力ずくで退治しようと龍王山に登りましたが、戻ってきません。村人が探しにいくと、関取は大きな体をクモの糸でぐるぐる巻きにされ、息絶いきたえていました。おどろいた村人はかま草履ぞうりを放り出し、転げるようにして村に逃げ帰りました。

 それからは、城跡へ誰か行くと必ず何か落とし物をしてくるようになったそうです。

 田井庄たいのしょう首切地蔵くびきりじぞう付近では、ジャンジャン火に出会った武士が刀で斬りまくり、はては石地蔵の首まで切り落としてしまいましたが、結局は黒こげになって死んだそうです。

 また、丹波市たんばいち南之町みなみのちょうで火の玉に出会った人は、持っていた提灯ちょうちんで防ぎましたが、焼け死んだと言われています。

 十市城で亡くなった十市遠忠や多くの兵士たちの怨念おんねんは、恐ろしいものですね。



 


 2.大きな櫟の木(櫟本町)      上へ移動
 昔、ある村に、大きな大きないちの木が天にもとどかんばかりにそびえていました。枝は四方しほうに広がり、村全体をすっぽりと包んでいました。

 村人たちは、毎日せっせと田畑をたがやして暮らしていましたが、この大きな櫟の木のためにお日さまの恵みが受けられず、米や作物さくもつはほとんど育ちません。

 さらに、この木の上に住む天狗てんぐがいたずらをしては村人を苦しめ、果ては毎年一人ずつ、むすめを差し出せと言ってきました。村人たちは困り果て、大きな櫟の木を見上げてはため息をつくばかりの毎日でした。

 ちょうどその頃、中国で修行しゅぎょうを積んだ覚弘坊かっこうぼうという立派りっぱなお坊さんが帰国し、村人たちが苦しんでいるのを知りました。覚弘坊は村人達の姿を見かね、何とかして天狗を退治たいじしてやろうと一策いっさくを講じました。

 ある晴れた日、覚弘坊は「もしもし天狗さん、中国から良いお土産みやげを持って帰ったよ。」と櫟の木の下から呼びかけました。

 さそいに乗って大木の上から顔を出した天狗に、坊さんは衣の中から、とおめがね(望遠鏡ぼうえんきょう)を取り出して見せました。

 「この、とおめがねを目にこうしてあてると、ずっと遠くの方まで見えるんだ。これを使ってあの東の米谷山まいたにやまから見下ろせば、大和やまと全体が見わたせるよ。どうだい、このめがね、ほしくないかい?」

 天狗は、そのめがねをぜひ自分のものにしたいと思い、 「それはいくら位するのだ?」と聞きました。

 「これは大変、高価こうかなものだが、お前さんが住んでいる櫟の木と交換してくれるのなら、タダであげよう。」と言うと、天狗は喜んで櫟の木から下り、とおめがねを手にとるや米谷山へ向かって飛んで行きました。

 坊さんはホッとして、大きな櫟の木をノコギリと念力ねんりきで、「えいっ!」とばかりに切り倒しました。

 すると、あたりは急に明るくなり、お日さまがキラキラとまばゆいばかりにかがやいて、村の上に顔を出しました。

 村人たちは大喜び。それからは、お日さまの恵みを受けて、村人たちの生活もゆたかになっていったそうです。

 その後、櫟の木が横倒よこだおしになった西の方の村を「横田よこた」、枝のかかった村を「櫟枝いちえだ」、櫟の木があった村を「櫟本いちのもと」と言うようになり、現在げんざいも地名として残っています。




 


 3.こんにゃく橋の幽霊(稲葉町)      上へ移動
 昔、稲葉いなば孫兵衛(まごべえというこうじ売りがいました。

 ある夜のこと、孫兵衛は、帰り道にとある石橋を通りかかりました。
 その日は淋しい闇夜やみよで、石橋を通る人は誰一人なく、薄気味悪うすきみわるい場所でした。

 孫兵衛が気持ち悪く思いながらも橋を渡ろうとすると、何か川の中から浮かんでくるものがあります。
 孫兵衛はギョッとして足がすくんでしまいました。浮かんで出てきたのは、こんにゃくを口にくわえ、かみをふりみだした女の幽霊ゆうれいだったのです。

 孫兵衛はこしをぬかして、そこへ倒れるようにヘナヘナと座ってしまいました。
 しかし、こわさにふるえながらも目を閉じて、一心に「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏」と念仏ねんぶつとなえ、幽霊の成仏じょうぶつを祈り続けました。

 一心不乱いっしんふらんとなえて、もう一回で百遍ひゃっぺんという時です。幽霊は孫兵衛の念仏の力に恐れをなしたのか、スーと、消えてしまいました。

 孫兵衛はホッとして立ち上がり、急いで橋を渡って稲葉に帰りました。

 その後、こんなことがたびたび起こったため、村の人はこの橋を「こんにゃく橋」と呼んで怖がるようになり、夜おそくに通る人はいなくなりました。

 そして、村の中ではこの幽霊について、一つのこんにゃくのことで夫婦争いをして死んだ女の執念しゅうねんが残り、幽霊となってこの橋に迷い出てくるのではとうわさし合いました。

 年月が流れた今では、もう幽霊も成仏じょうぶつしたのか姿を見せなくなりましたが、稲葉町と嘉幡かばた町の間には、今でも「こんにゃく橋」と呼ばれる石橋がかかっており、幽霊の話が伝えられています。



 


 4.天武帝の笏指池(福住町)      上へ移動
 今から約1300年ほど前、天武天皇てんむてんのう伊勢神宮いせじんぐうにお参りのため福住ふくずみを通られたときのことです。

 とうげを越えてなだらかな道をしばらく行くと、山ふところにいだかれ、きよらかな水をなみなみとたたえた美しい池が目の前に広がってきました。

 天皇は、思わず持っておられたしゃくで池をお指しになり、「なんと美しい水じゃ!」と、しばらく感じいられたようすでした。さっそくおともの者が清らかな水をくんで天皇にさしあげました。

 こうしたことから、この池を笏指池しゃくしいけといい、池のある所を皇奉下こうぼうした「福住町南田みのだ字コホシタ ・ ・ ・ コホンダ」と呼ぶことになったそうです。
 村の人たちの間では、シャクシキと呼び伝えられています。

 その後、池はつつみを残して五分の一ほどの小ささとなり、一面に水草がおい茂って見るかげもなくなりました。

 また、どろが溜まって「底なし池」とも言われるようになり、ここにはまると奈良の猿沢池さるさわのいけに出るという話まで広がりました。

 天皇の通られた道も、いまではきれぎれになり、地元の人以外は通る人もないありさまですが、昔は池のほとりで、花火はなびが打ち上げられたこともあったそうです。



 


 5.布留の名と神杉(布留町)      上へ移動
 昔、布留川ふるがわの上流から、一振りのつるぎが美しい水の流れとともに、泳ぐように流れてきました。よく見ると剣は流れながら、触れるものをつぎつぎに二つに切っています。

 その頃、川の下流では、一人のむすめ洗濯せんたくをしていました。
 娘がふと頭を上げて川上かわかみを見ると、剣が岩や木を切りながら流れてくるのが見え、ました。

 娘は慌てて避けたのですが、剣は洗いすすがれた白い布の中に入り込んでしまいました。おそるおそる布が切れたと思いながらよく見ると、剣は布の中にぴたりととどまっています。
 するどい剣が、布も切らずにその中に留まったことへのおどろききは言いようもありませんでした。

 娘はその不思議さにつくづく感心かんしんし、「これはただごとではない。きっと神様がなされたことにちがいない。」と思い、すぐにその見事な剣を社に奉納ほうのうしました。

 それ以後、剣が布に留まった所ということから、この地を布留ふると呼ぶようになったということです。

 また、万葉集まんようしゅうに「布留の神杉かみすぎ」と歌われた話には、つぎのように伝えられています。

 昔、いその神の振る川(今の布留川)は、山深く、樹木じゅもくが生い茂り、流れも美しい川で、人々の暮らしには欠かすことのできない貴重きちょうな川でした。

 ある日、川で一人の女が白い布を洗っていると、上流から草木をなぎ倒しながら、泳ぐように流れを下ってくる細長いものが目につきました。あっという間に白布に包まれたそれは、よく見れば剣先けんさきが鋭く、まばゆいばかりに光を放っているほこでした。

 驚いた女は、自分の家に持ち帰るのをおそれ、川のほとりに立てて、日ごと欠かさずお祭りを行いました。そのおかげで、人々は日々平和な生活ができたとのことです。

 その後、鉾が風雨ふううにさらされちてしまったので、その地に穴を掘り、鉾先ほこさきを埋めて祭りました。

 すると、間もなくその地に杉が芽生え、天をもさすほどにスクスクと成長しました。そして、この杉を「布留の神杉」と呼ぶようになったということです。




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