夏目谷の天狗
昔、
天狗は、池のそばの大きな松の木に登ってはあたりの様子をうかがい、どこかでいたずらをしてやろうといつも考えていました。
ある雨上がりの日、村人がその谷のそばにある畑へ行ったところ、畑の真ん中にやわらかい黒土(くろつち)が盛り上がっていました。「おやっ」と思いながら掘りおこしてみたところ、中から首のないにわとりが出てきました。
そのにわとりはまだあたたかく、うすきみ悪くなりましたが、今晩のごちそうにしようと思い直して持って帰り、とりなべにして食べました。
その夜、
村人は天狗のしかえしだと気づき、がっかりしてしまいました。
また、こんな天狗のいたずらもありました。
ある
「だんなはん、わたしを
でも、こんなにきれいな女がわしの嫁になってくれるなんてと嬉しくなり、男はすぐに、
「おいらの嫁さんになっておくれ。
しかし、村の
夜が明けてきたころ、そばを村人が通りかかり、びっくりして言いました。
「オヤッ、おまえは村の呉作どん。何してるんや!」
なんと、そこにはくたくたになった呉作が、大きな石を背負うて座り込んでいたのです。
夢からさめたように背中の石をおろした男は、嫁さんだと思っていた女が石になり、がっかりしてしまいました。
夏目谷の天狗は、ちょいちょい村人にこんないたずらをしたそうです。