昔むかし、ある晴れた日に、雷の子どもたちが雲の上で遊んでいました 。子どもたちは、父親から人間の子は竹馬というものに乗って遊ぶと聞いたのを思いだし、雲の上から下界をのぞいてみました。
雲から落ちないように、後ろをつかんで、かわりばんこにのぞき込んでいましたが、一人の子どもが雲からあまりに身を乗り出したために、地上へ落ちてしまいました。
天から落ちてしまった雷の子どもは、天王神社のしめ縄にひっかかり、宙ぶらりんになって苦しみました。もがけばもがくほど、しめ縄がからみついて、きつく締まります。
「助けて!助けて・・・」声はしだいにとぎれてきました。
そこへ苣原城の殿様が大勢の家来を連れて通りかかりました。かすかな声を聞いた殿様は、「あれなる声の主は何者であるか!」と、お供に尋ねられました。
「見たことのない姿をしています。あぶないので、近寄らない方がよろしいかと存じます。」とお供は答えました。
「なるほど、不思議な格好をしておるのう。しかし、小さい子どものようじゃ。苦しんでおるではないか。見捨てるわけにはゆかぬ、助けてやろう。」とお供に命じ、助けてやりました。
殿様が、 「お前は一体何者じゃ?」と聞くと、ゴロ吉は、「はい、雷の子でゴロ吉といいます。この村の上の雲に住んでおります。」と言いながら、何度も何度も両手をついてお礼を言いました。
殿様は、ゴロ吉が長い間もがいたせいで、疲れきっているようすだったので、お城へ連れて帰っておやつを与え、休ませてやりました。
一方、雲の上では上へ下への大騒ぎ。
雷の父親が大きな雷の音を出して地上のものをこわがらせ、子どもを助けようと、大雷光(だいらいこう)とともに地上へ降りてきました。
そして、お城の門前まで迫り、「子どもを返さないのなら、この村を雷攻めにするぞ!」とどなりました。
殿様は、「お前も子どもが可愛いのか。ならば、へそを取られた人間の子の親の気持ちもわかるだろう!」と父親に言われました。
すると鬼は、「へそはわしらの大好物だ。」と言い返しました。
「何と、大好物じゃと。へそを取られた女の子は嫁にも行けず、どんな思いをしているかよく考えてみよ。二度とこの村へは、へそを取りに来ないと約束するなら、子どもを返してやろう。」と殿様もことばを返されました。
鬼はしばらく考えてから、「わかった。わしも子の親。固く、固く約束を結ぼう。」と約束をしました。
殿様はそれを聞いて鬼を城に入れ、寝ているゴロ吉のところまで案内しました。
再会した雷の親子はおおいに喜び、一緒に雲の上へ帰っていきました。
鬼は、殿様との約束を守り、それ以来、この村には雷が落とさなくなったとのことです。
「雷の落ちない村」・・・これは、今の苣原町に伝わる話です。