昔、稲葉に孫兵衛(まごべえという麹売りがいました。
ある夜のこと、孫兵衛は、帰り道にとある石橋を通りかかりました。
その日は淋しい闇夜で、石橋を通る人は誰一人なく、薄気味悪い場所でした。
孫兵衛が気持ち悪く思いながらも橋を渡ろうとすると、何か川の中から浮かんでくるものがあります。
孫兵衛はギョッとして足がすくんでしまいました。浮かんで出てきたのは、こんにゃくを口にくわえ、髪をふりみだした女の幽霊だったのです。
孫兵衛は腰をぬかして、そこへ倒れるようにヘナヘナと座ってしまいました。
しかし、怖さに震えながらも目を閉じて、一心に「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と念仏を唱え、幽霊の成仏を祈り続けました。
一心不乱に唱えて、もう一回で百遍という時です。幽霊は孫兵衛の念仏の力に恐れをなしたのか、スーと、消えてしまいました。
孫兵衛はホッとして立ち上がり、急いで橋を渡って稲葉に帰りました。
その後、こんなことがたびたび起こったため、村の人はこの橋を「こんにゃく橋」と呼んで怖がるようになり、夜おそくに通る人はいなくなりました。
そして、村の中ではこの幽霊について、一つのこんにゃくのことで夫婦争いをして死んだ女の執念が残り、幽霊となってこの橋に迷い出てくるのではと噂し合いました。
年月が流れた今では、もう幽霊も成仏したのか姿を見せなくなりましたが、稲葉町と嘉幡町の間には、今でも「こんにゃく橋」と呼ばれる石橋がかかっており、幽霊の話が伝えられています。