天理市の中央を南北に貫く上街道に沿って、櫟本から北へ向かうと、大きな銅製の鳥居を持つ楢神社があります。
この神社の一角には、古くから鬼子母神をまつった社があり、子どもを授けてくださる神様として、遠くからもたくさんの参詣者が訪れています。
萱生町の集荷場の近くに、二体のお地蔵さんを刻んだ道祖神が建っています。山の辺の道ぞいで奈良盆地がよく見える場所にあるこのお地蔵さんは、「腰痛治しの地蔵さん」と呼ばれ、つぎのような話が伝えられています。
昔、萱生と竹之内の両村では、毎年夏の終わりの晴れた日に、村人全員が出て「池掘り」を行い、「今年はどんな大きな魚が取れるか」を楽しみにしていました。
いよいよ当日、にぎやかな池堀りの最中に、ひとりの男が大声で「出たア!」と叫びました。「いったい何が出たんや?」と皆が集まってみると、それは、一枚の岩に刻み込まれた二体のお地蔵さんでした。
「さわらぬ神にたたりなし。クワバラ、クワバラ」と村中が大騒ぎになってしまいました。そこで、庄屋さんが「念仏寺の無縁墓へお移しして、お祀りしよう」と皆に言い、選ばれた力持ちの若者によって運び出されたのです。
途中で、いっぷくをしようと若者たちが腰をおろした所は、奈良盆地がよく見える、ながめのすばらしい場所でした。お地蔵さんにすれば、池から出してもらったものの、寂しい念仏寺の石仏になりたくなかったのでしょう。「こんな見晴らしのいい場所はほかにないだろう。よしここにしよう」と、この地を居場所に決めてしまわれました。
休憩を終え、若者たちは「さあ、行くぞ!」と肩に天秤棒をかつごうとしました。ところがどうしたことか、力一杯ふんばってみても、かつげたはずの地蔵さんが今度はびくともせず、かつぎ上げることができません。それどころか突然の足腰の痛みに「痛い、痛い」と悲鳴を上げ、腰をかかえ足を引きずりながら「クワバラ、クワバラ、お地蔵さんのたたりだ」と村に逃げ帰りました。
若者たちの話を聞いた村人は、お地蔵さんの怒りにちがいないと、その場所へ丁重にお祀りし、お経を唱え供養しました。すると、どうでしょう。若者たちの腰痛はうそのように治ったのでした。
この話は今に伝わり、腰から下の病気を治してくださるありがたいお地蔵さんとして近在の信仰を集め、お花はいつも美しく、線香や果物も供えられています。