むかしむかしあるところに、大きな櫟の木が、天にも届かんばかりにそびえていました。その枝は四方に広がり、その村全部をすっぽりと包んでいました。村人たちは、あのまばゆいばかりのお日さまの光も知らず、またあの澄みきった美しいお月さんの明るさも知りません。
毎日毎日せっせと畑をいじり、田んぼを耕がすやして生活を送っています。しかし、櫟の木のために、お日さまの恵みも受けられず、米は実らず作物はほとんど育ちません。
村人たちはその木をのろい、何とかして取り除こうと村長さんを中心に、いろいろと苦心を重ねて話し合っていますが、あまりにも大きいためにどうすることもできません。
「ああ、作物は出来ないし、この木、何とかならないだろうか」「困った、困った」村人たちは毎日毎日その大きな木のために、ためいきをついてはなげいていました。
その様子を見ていた神様は、あまりの気の毒さに心を痛められ、何とかしなければいけないと早速神さんの会議が開かれることになりました。風の神、雨の神、雷の神、その他たくさんの神さんが集まり相談しました。
「村人が、あの木のために非常に困っている。何とか良い方法はないだろうか。」
「そうだな。あまりにも大きい木のため、どうしてそれを倒すか。」神様たちは、いろいろと考えました。
ある日のこと、朝から強い雨が降り、風も出てきて、目もくらむばかりの稲妻が、大きな雷の音とともに天地もさけんばかりに鳴りひびきます。しばらく続くうち、耳もつんざくような音とともに、あの村をすっぽり包んでいた櫟の木がバリッバリッと倒れていきます。
それはすべて神様のお力なのです。
村人たちは、突然のもの音にびっくりしました。そしてじっと家にとじこもり、嵐の止むのを待ちました。
やがて雷がおさまり、雨が止み、もとの静けさになりました。と同時に、急に明るくなり、今まで目にしなかったお日さまが、まばゆいばかりに輝いています。
村人たちは村中あげて喜びました。そして神様に感謝しました。
あの大きな木は西の方へ倒れています。
その大きな木の横倒しになったところを「横田」といい、枝のかかったところが「櫟枝」といわれました。またその枝をこなした数が千束あったことから、その積まれたところが「千束」と名付けられ、その櫟の木のそびえていた村がその元として「櫟本」と呼ばれたという言い伝えを耳にしています。櫟本のあたりの地名は、そこから来ているのです。