石上町の東にある平尾山に、姫丸稲荷大明神が祀られています。初午や二の午には、遠くから厄年の人が厄払いにお参りし、露店もたくさん出て、村の祭りのようなにぎやかさでした。
お稲荷さんの前には「けんけんさん(きつね)」が石の上にすわり、お稲荷さんを守っています。
また、この社から南東へ約500メートルほどの所には「きつね塚」があり、石碑が建っています。この塚には多くの穴があり、昔はたくさんのきつねが住んでいたそうです。お稲荷さんのお使いとして、けんけんさんと呼ばれてあがめられていました。今は竹藪になっていて、穴の跡は分からなくなってしまい、きつねの姿を見ることもめったにありません。
この人里離れたお稲荷さんを、かつて石上町に住む非常に信仰心の厚いおばあさんが守っていました。夜遅く、村から平尾山のお稲荷さんに帰る時には、けんけんさんが赤い灯をつけておばあさんを迎えに来たといいます。ですから、夜遅くなっても安心して、少しも苦にならなかったということです。
ある正月の夜のことです。おばあさんと家族の人たちが平尾のお稲荷さんに初詣でに行く途中、近くの坂道のあたりに赤い灯がついているのを見つけました。人影もないのにどうしてだろう?とおそるおそる近づいてみると、おばあさんの来るのが遅いので、迎えに来てくれたけんけんさんの灯でした。
今、お稲荷さんには、お守りの人はいませんが、村の人々によって大切にされています。けんけんさんの話は村の中で、今も古い話として語り継がれています。