ある木枯らしが吹く寒い冬の夜、布留の里の女が寂しい菅田の森にさしかかりました。一人ではなんだか心細く、怖いなぁ、何も出なければよいが、と思って歩いていると、後ろから呼び止める声がします。女はギョッとして立ち止まりました。
「もし、女衆さん、私の子どもがおなかをすかして泣いています。母に死なれた子どもはふびんです。どうか乳を恵んでやってください」と、キツネがいともあわれな声を出して女に訴えました。女はほっとして、「かわいそうな子ギツネよ、私の乳を飲ませてあげましょう。私は毎夜この時刻に、ここに参りますから」と言い、毎晩通っては子ギツネに乳を授けてやりました。
キツネは大変喜び、恩返しをしようと、ある刀鍛冶の弟子に化け、向槌を打って一振りの刀をこしらえました。立派な刀ができあがり、キツネはその刀をお礼にと女に贈りました。女は大そう喜んで「小狐丸」と名付け、自分の守り刀として大切にしていました。
その頃菅田の森の池に、恋に破れた女の化身の大蛇が現れ、毎夜大暴れしては花嫁を連れ去り、田畑を荒らして、人々を苦しめていました。そのことを聞いた女は、キツネの助けを借りて大蛇を退治しようと、池に向かいました。女はキツネからもらった小狐丸をふるって、大蛇に斬りつけました。
大蛇は暴れ狂い、のたうちまわって抵抗しましたが、ついに小狐丸にのどを突かれ、真っ赤な血で池を染めながら退治されてしまいました。村人も大喜び、小狐丸を持った女にみんなで礼を言い、喜び合いました。