上山田のやま峠は急な峠で、昔は奈良と伊勢を結ぶ大事な道でした。わらじをはいた多くの衆人や商人、物を運ぶ人々が通りました。上山田の村では、年に一度伊勢に代参することになっていました。代表で参ってくださる人を峠まで送り、無事にお参りをすませて帰って来る日に、またこの峠に迎えに来てめずらしい話やおみやげをもらったようです。
そのやま峠に「大師の井戸」というのがあります。どんなに日照りが続いても、こんこんと清水が湧いている大変ふしぎな井戸です。ある時、弘法大師が旅をされて、やま峠を通られました。多くの人々が峠を超える時のどをかわかす様子をご覧になり、とても気の毒に思われて、杖で井戸を掘られたところ、清水がこんこんと湧いてきました。
それからその井戸は「大師の井戸」と呼ばれ、多くの衆人や村人に大変よろこばれました。今は新しい道ができて、人もめったに通らなくなりましたが、「大師の井戸」は今もこんこんと清いおいしい水を湧き出しています。