現在の天理市内のやや中央辺りに、そう、ちょうど、丹波市の隣に、「田町」という、昔ながらの村があります。この村は、名のとおり、田んぼばかりの村です。そこの村の中心から東南の方向にひとつのお地蔵さまがまつられています。お地蔵さまというのは、そもそも、子どもの神さまです。しかし、この村の伝説では、病気の神さまだと、村の人々はいいます。
昔々、この村だけでなく、この付近一帯の村々が、はやり病(悪性の風邪やコレラのような伝染病)におかされました。もちろん、現代のようには医療技術も発展していなかった時のことですから、そのはやり病といわれる病気は、どんどんくまなく広がっていきました。
そうするうちに、病気にかかった家族の人が、「どうしても助けてくれ」と、このお地蔵さまに願いをかけたのがはじまりです。すると、どうでしょう。願いをかけたその家の人の病気はみるみるうちに治ってしまったのでした。しかし、すべての人の病気が治ったわけではありません。
この話を聞いた村の人々は、みんなでこのお地蔵さまにおまいりをし、願いをかけたのです。お供物をし、貧しいものですから、寄せ集めのあずきとお米でおかゆを作り、みんな一生けんめいに拝みました。そのあずきのおかゆを食べた病人はあれよあれよという間に、元気になって、仕事に出かけました。そしてあれだけたくさんの人を苦しめたはやり病もぴたりと止んでしまったではありませんか。
それからというもの、この村とその付近の村の人々は、はやり病が出ると、このお地蔵さまの前で拝み、炊いたおかゆを病人に食べさせることにしました。
今では、その行事も、一年に一回、八月二十四日の地蔵祭りに行われています。しかし、昔は、二、三年に一度や一年に二、三度となったりというふうに、はやり病が出てきた時にだけ行われたのでした。そのような言い伝えから、今日では、そのおかゆを食べると来年の地蔵祭まで、健康でいられると言い伝えられているのです。