昔、豊田村に大変貧しい、油屋の梅さんという人が暮らしていました。
梅さんは、ある夜ふしぎな夢を見ました。ススキが美しい愛宕山へ登っていく夢です。ススキが月の光に輝いて、銀の山に遊ぶような気持ちでいっぱいでした。
梅さんがその美しいススキ野にいると、目の前のススキの中から世にもまれな美しい女の人が現れ、梅さんを手招きするのです。梅さんは、その女の人を追いかけました。ススキを押し分け、けんめいに追いかけ追いかけ、ようやくもう少しで手が届くという時、女の人の姿はかき消え、そこから一筋の光が空をさして昇っていきました。そして、梅さんは夢からさめました。
次の日、夢の中で出会った美しい女の人を忘れることができない梅さんは、その人が消えた場所を求めて山へ登りました。夢の中で見た場所をあちらこちら捜し歩き、やっと女の人が自分の手から消え去ったと思われる場所を捜し当てました。
さっそくそこを掘り起こしてみると、土の中から一枚の古い鏡が出てきました。梅さんはその鏡を美しい女の人から授かったものと思い、大事に家に持ち帰り、朝夕、お灯明を上げてお祀りしました。
その清い心が神に通じたのか、油屋の商売もしだいに繁盛し、村一番の金持ちになったそうです。ところが、それをねたんだ近所の人にだまされ、梅さんは鏡をある金持ちにゆずってしまいました。それからの梅さんには不幸が続き、村にさえいられなくなり、いつしか村から消えるように出ていってしまったということです。