むかし、苣原町に、大念仏(融通念仏宗)、西福寺(真言宗)、十三仏寺、地蔵院等、七つの寺院がありました。
その中の十三仏寺には、高さ二メートルに及ぶ十三仏石が鎮座しておりました。立派な十三仏石が狙われたのでしょうか、ある夜、牛の角に松明をくくりつけた何者かの襲撃を受けました。時ならぬ襲撃に、わけもわからぬまま、僧侶と小僧達は、てんでに如来様をかかえ、般若経を持ってお経を唱えながら、寺内を逃げ惑いました。
牛は寺内であばれくるい、角にくくりつけた松明のために、お寺はたちまちの間に燃え上がりました。最後まで寺院を守りぬく覚悟の僧侶や小僧達も、どうする術もなくなって裏の崖を駆け登りました。それはそれは大変な出来事で、逃げる方も追っかける方も必死でした。その真剣な気持ちが強かったあらわれでしょうか、崖石の上に、大人、子ども、牛の足跡が、くっきり残ってしまいました。
十三仏寺は、全焼しましたが、みんなが真剣に唱えたお経のおかげで、十三仏石は、そのまま残りました。
その十三仏石は、不動明王、釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩、薬師如来、観音菩薩、勢至菩薩、阿弥陀如来、阿閦如来、大日如来の十二仏が三体づつ四段に並び、最上段に一体だけ、虚空蔵菩薩が趺坐しておられます。これら十三仏が一つの石に半浮彫りにされており、天文二十四年の銘があります。
無事に残ったこの仏石は、大和最大の十三仏石として、大念寺門前に現在も鎮座しています。
また、牛の足跡石も、苣原町字牛ケ滝の寺跡にそのまま現存しています。